3.探索記録:碧照ノ樹海

ミズガルズ実働隊:第二迷宮

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「……以上が東土ノ霊堂の調査結果になります」 「ご苦労だった。汝らの働き、感に堪えぬ」  夜中に叩き起こされたペルセフォネは机上に並んだ報告書や地図、そしてミッションを成し遂げた忍び装束の冒険者を労うように笑みを浮かべながら報告に耳を傾けていた。  その身なりは昼間見た時からほとんど乱れておらず、鎧を脱ぎ髪を梳《くしけず》って眠る暇もなさそうな姫君に忍び装束の男──サヴァ・カーンは内心同情する。  ……待つ間に盗み聞きした衛兵の話によれば、先程ペルセフォネはやっと仕事が一段落し仮眠を取っていたそうだ。  我ら下々から国の元首まで働きっぱなしのマギニアはまるでアリの群れのようにも見える。 「ところで汝の仲間は今どこに?」 「今回は疲れているようでしたので先に宿へ戻らせました」 「そうか。では私の代わりに『碧照ノ樹海』の立ち入り許可を伝えておいてくれ」  サヴァ・カーンは探索許可と新たな指令に軽く会釈すると、真剣な顔で提出した書類を捲るペルセフォネの邪魔にならぬよう静かに半歩引いた。 「遺跡の損壊がここまで激しいとは……ほう、最奥には守護獣がいたのか……」  ペルセフォネは地図の写しと報告書に鼻がつきそうなほど顔を近づけて寝起きの脳に情報を叩き込む。  そのまま衛兵に資料として配布できそうな程に完璧な報告書、そこにミズガルズ実働隊が発見した最大のイレギュラーが記されていない事を彼女はまだ知らない。  ……今後それを教えるつもりもない。 「それから、汝らが発見した『樹海磁軸』だが……これが別の島へと繋がっていたというのは真か?」 「はい。我々が実際に確認した所、東土ノ霊堂から『幽寂ノ孤島』の磁軸と行き来が可能でした」 「……そこまで調査済みだとは」  視界の隅で地蔵のように佇むサヴァ・カーンは、その質問を予想済みだと言わんばかりに小さく会釈して紙の山から一枚の調査記録を引き出す。  ……真新しい報告書にはペルセフォネの知りたかった、或いは後で調査隊を派遣して調べさせるつもりだったであろう事柄は既に記録済みだ。  そのままペルセフォネは差し出された紙を素直に受け取り口をポカンと開いて呆けていたが、やがて腹を抱えて|くつくつ《﹅﹅﹅﹅》と笑い出した。  ……無名の冒険者ギルドとは思えない気が利きすぎともいえる段取りは感嘆や驚きを通り越し、最早一流のエンターテイメントのようで腹の底から愉快な気分になる。  一息ついて年相応の少女になっていた表情を元に戻し木製の許可札に判を押し、それを投げ渡してやると青年は再度腰が直角になるような深い会釈で応えた。 「良いだろう、汝らギルドを調査団の一員として認める。疲れが取れ次第幽寂ノ孤島の調査に参加するのだ」 「ありがたき御言葉、粉骨砕身の覚悟で任に当たります」  まるで祭り前の少女のように蒼い瞳を輝かせるペルセフォネとは対照的に、サヴァ・カーンはこの程度何でもないと言わんばかりに恭しく頭を下げるだけだった。 (さて、後はアレの始末をつけるだけだな)  ……そのオレンジ色の三白眼は窓の外、街灯のロウソクのように小さい光だけが点々と遠くに続いている夜の街を見つめていた。

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更新履歴

・2026/05/09:第1版 ・2025/05/04:(旧)第1版(1~2)