ストレンジラブ

アモロ観光局:海都ルートのその後の物語。

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アーモロードの海。 穏やかで温かな海も今は紺碧に染まり、足首に触れる白波はガラスのように冷たかった。 それが抱きかかえた剣と同じ温度であることに気が付き、アモロは笑った。 「寒いですね!ザイフリート様っ」 アモロはそう言ってマントで包んでいた剣を降ろし、防波堤の上で剣に寄り添って座った。 ……アーモロード最後の王ザイフリートの遺品より作られ、デュランダルと名付けられた一振りの剣は真夜中の海で十字の鍔と金色の剣身を煌めかせていた。 「昼間のザイフリート様カッコよかったです〜! もちろん普段の姿も今の姿もカッコいいんですけど、やっぱり高貴さと勇ましさを併せ持った機械の体と凛々しいお顔がイケメンすぎてオレもうメロメロで、オレも機械になろうかな〜!」 アモロは剣から目をそらし顔を覆ったり、かと思いきや紅潮した頬を必死に隠しながらはにかんだり、相槌を忘れてしまうほど興奮していた。 ……その姿は物ではなく『生きているザイフリート』相手に話しているようにしか見えない。 「この冒険でオレ、ザイフリート様とアーモロードのことがもっとも〜っと好きになりました!」 だから!とアモロは高らかに声を張り上げると、砂浜に飛び降りる。そして踊りに誘うような手つきで剣の柄を優しく握りしめた。 「オレの昔話をお話しようと思います、一番大事で宝物の……アーモロードと出会った時の思い出話です」 普段の活力に溢れる声ではなく、寝物語を囁くような柔らかな声。暫しの沈黙の後、アモロは満足気に笑うと剣を鞘から抜いて宛もなくアーモロードの白波の淵をゆらゆら歩き始めた。 「実はオレって記憶喪失らしくて、本当の名前とか家族のことは忘れてるんですよ。でもアーモロードが好きな事とか冒険者になった後の事は覚えてます!!」 アモロは頭に指先を当て自身の境遇を他人事のように口にした。 身を粉にして稼いだ資金でアーモロード旅行に来ていたはずなのに、気がついたら見知らぬ街で倒れており何も思い出せなくなっていたのだ。 そこの冒険者にアーモロードの事しか覚えていないのでアモロと名付けてもらったのは幸運だった、今度会ったらもう一回お礼を言っておこう。 「その時は現地の冒険者と一緒に冒険してたんですけど、世界樹を踏破したら目が覚めてアーモロードの病院に居たんです! ショクチュウドクによるユウタイリダツとかイキリョウとかよくわかんないこと言われましたねー、まあいっか!」 まあいいかの言葉通りアモロは早々に来歴の話を切り上げた。例え記憶喪失のような重大事でもアーモロード関連の事柄以外だと興味を持たないらしい。 「覚えてる事といえば……こういう空っぽの貝殻、これが子どもの頃のオレでした!」 周囲を観察しながら歩いていたアモロがふとしゃがみ込む、冷えた砂浜から掘り出したは白く欠けた貝殻だった。食われたのか忘れられたのか、長年放置された貝殻は色どころか凸凹も失われている。 「全部実感がなかったんです。自分とそれ以外、この二つしか感じませんでした。人もカレーも船も何もかも一緒くたになってぬるくなって……死んでるってあんな気分だと思います!」 暫くアモロは貝で遊んでいたが、やがて飽きたのか風化しきった貝を海へと投げ込むと海が水で出来た喉を小さく鳴らした。 それを見届けると靡く髪を押さえながら立ち上がり、剣に向かって笑いかけた。 「でもあの日、偶然街にやって来た展覧会に入って全てが変わったんです。 あのどこまでも澄み切った真っ青な蒼い海と空、白い漆喰と緑煉瓦の街並み、停泊する海鳥と船の群れ!」 強い潮風の中アモロはその場で踊るように両腕を広げて回る。星空を流し込んだ藍色の海、青く色付いた街並み、静寂の夜、潮香る風──今の彼は愛しきアーモロードの全てを抱きしめているのだ。 「その絵画を見た瞬間、真っ白だったオレはアーモロードの蒼に染まったんです。オレはアーモロードに恋したんです」 アモロは青い波打ち際に飛び込むと足先で海を掬い上げて飛沫をちらして遊び回った、そしてわずかに濡れた剣に気がつくと目を細め海水を拭い取った。 「その絵画展の中でもザイフリート様の戴冠式の絵が一番好きなんです!」 こういうポーズの絵ですよと言いながら剣の柄に手を置いて緩んだ顔を引き締めるアモロ。 つま先から毛の先まで、全身の筋に活力を滾らせて青い目で正面を真っ直ぐ見据え、唇を真一文字に結んだ姿は本当にどこかの国の王様のようであった。 「絵の中のザイフリート様は綺麗な目をしてました。解説では『未来を知っているのかのように憂う表情の若王』って書かれてたんですけどそうは見えませんでした」 「だってあの顔は覚悟を決めた顔でした、ザイフリート様らしい誰かを守る強さを秘めた目です! きっとザイフリート様は世界樹に魔のことを教えてもらってたんですよね、アーモロードの王様になる事はとても大変でとても怖いって事を飲み干して国民を守る王様になった!そういう表情でした」 あの絵を描いた画家もきっとザイフリートの心を理解していたのだろう。だからこそ、何の縁も無かった空虚なアモロ少年にも魂を吹き込む絵が描けたのだ。 「だから、アーモロードとザイフリート様のことが大好きです!オレはこれからも死んでもずっとこの身を捧げる覚悟ですっ!」 大きく息を吸って吐き出したのは精一杯の愛の言葉だった。自己を失っても何十年も想い続けて、出会った場所と同じアーモロードの海で。応えはなくともアモロはこの瞬間を永遠に覚えていると確信するのだった。 ……そして変わらず金色に輝く剣を見たアモロは破顔して飛びつくとその場で歓喜の笑い声を上げながら転がりまわった。

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更新履歴

・2024/12/03:CSS更新 ・2023/11/24:第1版