1
昼過ぎに起きたアモロが宿の少年から最初に聞かされたのは、アモロ観光局がアーモロードに潜む魔を遂に退治したという話だった。
「どうしてオレも連れて行ってくれなかったんだよー!」
「そりゃあ、あんたが爆睡してたからよ」
「でも、その様子だと病気という訳でもなさそうですね」
不機嫌そうにバーテープの上でエールジョッキを転がすアモロ、その手からエールジョッキを取って酒場の女店主に渡す占星術師の男、そして赤髪を三つ編みにした少女が彼の隣に座った。
「名誉の負傷だろ、それ。いいな~オレも今から樹海行こうかな」
「何バカなこと言ってるの…」
呆れ顔のテオドラの腕や顔には絆創膏や包帯が巻かれており、酒場に集った他のメンバーも大なり小なり怪余をしている。アモロ観光局の中で今無傷なのはアモロだけだ。
「えっえー!?こっちは死ぬかと思ったのに…お気楽だよねぇアモロは」
「アモロ様らしい勇ましい言葉ですよね」
銀髪のシノビの少女をなだめるように赤ずきんの少女が笑みを浮かべる。 あの丸太を百本まとめたような魔の触手を回避し続けたシノビの少女からしてみれば、ノーテンキにエールを飲み続けるアモロに文句の一つや二つ言いたくなるのは仕方ないだろう。
「ふぁぁ…」
「おや、まだ寝足りないようですね」
「おかしいな…こんなに眠いなんて」
瞼をこすりながらアモロは立ち上がる。なんというか、今日はずっと眠い。 眠すぎて海獣丼も五杯しか食べられなかったし酒の眠さとは違う、歳なんじゃないのかと騒ぐシノビの少女に言い返すのも今日はおっくうだ。
「悪ぃ、オレ先に帰るわ、パーティー楽しめよ!」
「おかえりですか、なら私が宿まで送りますわ」
「良いって良いって!トコも主役なんだから、主役がいないなんてパーティーじゃないだろ~」
足取りのおぼつかない姿を心配そうに見つめるトコへ、アモロはサムズアップと歯を見せた笑顔を見せつけると宿に向かって自信満々な足取りで歩き出す。 そして数歩歩いたところで逆方向に歩いていたことを思い出して、酒場の方へと戻ってきた。
迷子になりかけながら歩くこと数十分。アモロがアーマンの宿の扉に手を伸ばした瞬間、突然扉が開いた。 驚いて上を見上げるとそこには見知った無表情がアモロを見下ろしていた。
「八十じゃん!パーティー行かなかったのか?」
「いえ、商店で作らせた武器を取りに行っていたんです」
ほらと言って八十が見せた刀は長身の彼女と同じくらい長い刀だった。 それにその刀はアモロの素人目でも名品だというのが分かる気迫だ、たぶんデュランダルに次ぐ一品だろう。こんな物が出来るのは…
「もしかして、魔の素材から作ったのか!?スゲー!」
「はい。私もどうしてこうなるのかは分かりませんが、何でも切れそうですよねコレ」
「ぎゃー!スライスされるー!!」
「今は斬りませんよ。では」
「いってらー」
八十は強いがふざけに関しては自分が一番だ、アモロは全力の変顔をして八十を送り出したが彼女が振り返る事は無かった。 やがて満足いくまで変顔を続けたアモロも宿帳にミミズのような眠い字を書いて、ベッドへ飛び込んだ。
2
「ううん…誰だ」
アモロの眠る耳元で何度も自分を呼ぶ声が聞こえる、アモロ観光局のみんなでもなく、宿の少年でも無い。 瞼を開いてみると真っ暗な部屋の中に、隣に寝かせたはずのデュランダルが光を放ちながら浮かんでいた。
「キャーッ!デュランダルが喋ってるぅ!やったー!!ザイフリート様が蘇った~~!!」
『そうではない、余はこの身体を通じて直接話しかけているだけに過ぎない』
「えーザイフリート様じゃないの…ショックなんだけどー…」
『今からする話はアモロ、汝にしか出来ない。深王の意志を受け継ぐ汝にしか出来ない』
「そういう事なら早く言ってくれよ!それで何をすればいいんだ!?」
分かりやすく興奮をあらわにするアモロに金色の剣は僅かばかり沈黙すると、先ほど同様荘厳で透き通った声が聞こえだす。
『今余がこの地の底で抑えている魔、アレはまだ死んではおらぬ』
「え?テオドラたちが倒したって聞いたけど?」
『あれでは圧倒的に”出力不足”だ。本来の力を出していない、あるいは別の時空に本体がいる』
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
この言葉が真実なら確かに世界の危機だ、だが情報が少なすぎるし胡散臭い、まだ夢の中かも。興味ありげに顔を近づけつつも、アモロの目の中には警戒するように光っていた。 その疑問を拭い去るように、答えが返ってきた。
『余は世界樹、遥か遠きよりこの地を見守るものだ』
「世界樹!!?」
世界樹といえば海都と深都に立っているあの大木。 守り神と崇められているがこうやって話しかけてくることはありえないはずだ、少し前に在りし日のザイフリートからそう教えて貰った事をアモロは脳のしわに染み込ませている。
例外があるとしたら…
「この剣はかの青年王の身体だったもの。故にこれを通し話しかけている」
「そうなんだ……で、その魔を倒すためにオレは何をしたらいいの?」
「余に協力するのだ、本当の魔を滅しこの星を救うのだ」
「うーん…どうしよっかなー…」
そう言った直後、部屋の戸棚から一冊の本が落ちる。古びたデザインながら一切の埃をかぶっていない白い本…空中樹海で手に入れた本、の二冊目だ。 少し前に旅行の下見の際、親切な冒険者から譲ってもらったものだ。
「あ、貰い物。何で落ちたんだろ?」
「それが必要だ。それだけのエネルギーがあれば時間跳躍装置を再起動させられる」
「じかんちょうやく?」
手を伸ばしたアモロの背後から声がかけられる。剣が語ったソレはあまりに聞き慣れない単語で、アモロは復唱する事しかできなかった。
「汝には時空を飛び越え、過去へ行ってもらう。まだ深都が秘され、青年王が生きていた時代に」
「ザイフリート様ともう一度会えるのか!?」
ザイフリートと再会できる、アモロは思わず食い気味に叫ぶと剣…世界樹に詰め寄った。 頬は紅潮し大きく見開かれた目は汗が入りそうなほどまん丸だ。
「その通り。協力するなら余は魔を滅し、汝は会いたい人間に会える、利害は一致している筈だ」
なだめるような言葉にアモロは何とか目をつぶって息を吐く。
今の剣になったザイフリートでも十分幸せだが…また生きたザイフリートに会えるのだ。
それならまた愛を伝えるチャンスがやって来る、アモロはザイフリート幸せにするためなら何だってする、例えその先が断崖絶壁だとしても、だから何だというのだろう? ゆっくりと顔を上げて、アモロは剣を見据える。今度こそ彼の笑顔を守れるのかもしれない、一振りの剣としてではなく一人の人間として。
「……やるぜ、オレは過去に行ってザイフリートと幸せにする!」
そう言って勢いよく本を差し出すと本は勝手に剣に取り込まれ、持てと言わんばかりにアモロへ柄が向けられる。よく見れば剣全体に樹や葉を模した飾り彫りがされていた。
「それを掴めば汝との間に繋がりが産まれる、アーモロード王家の人間と交わしたものと同じく。次目覚めれば、そこは過去の世界だ」
「おう!」
大きくうなずいて剣を持ち、アモロはベッドに飛び込んだ。まだドキドキの止まらない自分に言い聞かせるように、アモロは早く寝るぞ呟いく。 寝起きにしては凄い事を託されたものだ、しかもザイフリートの後釜として!そう考えると顔が自然とにやけてしまう。
「ザイフリート様、今度は必ず助けますからねっ!」
あとがき
プレイ記録の方にあるHDSQ3アモロ観光局の海都ルートの更にあと、禍神を撃破した後のお話。
世界樹IIIといったら複数エンディング…とくればループ物でしょ!!なのでアモロ観光局ならどうやって他ルートに派生するかなと考えた結果がこれ。
世界樹はなぜアモロを選んだのか(アホだし裏切らなさそうだから……?)