「ザイフリート様は今幸せですか?」 玉座に近づこうとするアモロをオランピアの機械の腕が遮る。玉座に座る深王は口をしっかりと結んで、アモロの言葉を口の中で飴として舐め転がし飲み干そうとしているようだった。 アモロとオランピアが見つめ合っている内にやがて、深王の玲瓏とした青紫の瞳にアモロが映り込んだ。 「魔の消滅は我に課せられた使命、王として生まれ役目を果たした事以上を望むのは民と国に対する傲慢だ……だが」 「我は考えないようにしていたのかも知れない。卿らがフカビトの姫を下すよりも遥かに昔から、我の頭の片隅には見知らぬ少女の姿があったのだ。 ……少女のことは何も覚えていない、ただ忘れてはならないとだけ思うのだ」 「深王さま」 「……我の身を案じているのだろう、汝はいつも我を守ろうとしてくれる。 真実というものは苦い、だが甘い夢よりも遥かに勝るのだ」 深王の目に映る頼もしい右腕の少女は弱々しく、鉄製の口元が今にも泣き出しそうなほどに歪んでいた。 初めて見たはずなのに、オランピアのその表情すら夢も見れない頭のどこかに引っかかっていた気がする。 「……オレ分かりました」 深王とオランピアをじっと静観していたアモロが明るい声を上げる。数歩後ろに下がり一礼したかと思いきや黄金に輝くデュランダルを腰から引き抜いて掲げた。 剣身の彫刻は世界樹を模した葉と枝が書かれ天極殿星御座の広間を照らしていた。 「ザイフリート様、オランピア、オレ分かったんだ。オレがザイフリート様を本当に幸せにするにはどうすればいいか」 深王を守る為に研がれたオランピアの刃が届くよりも早くアモロはその剣先を自分に向けて、深王に微笑みかけた。アモロらしい馬鹿っぽくって明るい満面の笑みではなく、オランピアのようにどこか不器用で愛らしい鉄仮面の笑みでもなく、聖者のように目元を細めるだけの無欲なものだった。 「ザイフリート様が笑顔じゃないからもう一回やりなおすぜ!」 アモロは高らかに宣言し、黄金剣を自身の胸に突き刺す。赤黒い血の代わりに陽光のような黄金色の光が溢れ出し太陽のない深都を包み込んだ。 それは星に流れる大いなる力の源泉、神竜の力の源であり、一周前に失われ世界樹の手によって魔を消滅させる切り札に変えられた『もう一つの星のエネルギーの結晶体』だった。 全てが早回しの景色と光に飲み込まれる中でアモロの耳に誰かの遠い声が聞こえた。 ──それは気難しい仲間の驚愕の声だった。彼女でも驚くことがあるのか、次会ったら目いっぱい驚かそうとアモロは悪だくみした。 ──それは心優しい従者の苦悶の嘆きだった。もしかするとついでにこの人も笑顔になるかもしれない、その時はアモロも一緒にはしゃごうと夢想した。 ──それは狂気に堕ちた聖職者の静観の息だった。敵か味方かよく分からないけれど面白く次の世界でも仲良くしたいのでアモロは楽しかった日々を思い出した。 ──それは剣にわずかに残った繋がりの怒りだった。元から”あの御方”さえ幸せならどうでもよかったので怒られてもアモロはなんとも思わない。 ──それは誰かの従者の切実な願いだった。彼らの願いが砕けようがアモロにはどうでもいいことだが、彼らもついでに幸せになれるかもしれないと予感した。 ……それはうまく聞こえなかった。光に包まれた視界では上手く見えないけれども、それが誰なのかどんな気持ちなのかどこから声を掛けているのか今のアモロには分かる。 だから親指を上に立てて世界で一番幸せ者だぜ、だから待っててほしいと伝えなくてはならないのだ。 「ザイフリート様の忘れ物を探してくるぜ!」